〜Otogi Story〜

K.A.N.O.N.
【第1話】

                  天原 福真
2002.4.28



 

 季節は春・・・。

 冬の間は毎日のように降り、道路の端などに集められてこんもりとした山を作っていた雪も、もう街の何処にも見あたらなくなっている。

 他より少し遅い桜前線もやってきて、街のあちこちでは桜の花びらが雪の代わりとばかりに降り積もっていた。

 あちこちで春の息吹を感じることが出来る今日この頃・・・。そんな中、青年が一人、駅前のベンチに腰を下ろしている。

 年の頃は、20代半ば・・・。中肉中背、容姿も特にどうと言うところもない、いたって普通の何処にでもいるような青年。近眼なのか眼鏡を掛けているが、それも大した特徴とは言えない。

 けれど、あえてその人柄を表すものをあげるとするならば、眼鏡の奥の眼にたたえられた優しげな光だろう。

 それは、全てのものを包み込むような、穏やかで深い輝きを放っている。

「ふぅ・・・やっと着いた。まさかこんなに時間がかかるとはおもわなかったよ・・・」

 そう呟きながら、背もたれに寄り掛かり、空を仰いでため息をつく。

「切符代節約のために普通列車で来たのはいいけれど、長時間座りっぱなしだったから、身体のあちこちが痛いや・・・。こんな事なら、急行で来れば良かったかも・・・」

 流れる雲をボーっと見ながら、更にそんな事を呟いたとき、青年の脇に置かれていた紙袋がカサカサと音を立てて揺れる。

「あ、ゴメン。もうちょっとだけ待ってね。ええと・・・」

 そう言いながら足元のリュックを背負い、そして紙袋を胸に抱えながら辺りをキョロキョロと見回す。

 その紙袋の中に入っているのはぬいぐるみ・・・。しかも、その全てがデフォルメされた女の子の姿形をしている。

 UFOキャッチャーなどの景品になっているぬいぐるみをイメージすればピッタリ来るだろう。

 そんなぬいぐるみ達に話しかける、いい歳をした男性・・・。誰かに見られたら、ちょっとアレな光景かもしれない。

 しかし青年はそんな事は気にしていないようで、やがてビルの影で死角になっている場所を見つけると、そこに紙袋を抱えて入っていく。

 周りを見回して、他に誰も人がいないことを確認すると、青年は紙袋の中のぬいぐるみ達に向かって、優しく声を掛ける。

「みんな、もう元に戻って良いよ」

 すると、紙袋の中のぬいぐるみ達が、ゴソゴソと動き始める。

 そして、ポンッというコミカルな音がしたかと思うと、青年の前に何人もの少女が姿を現した。

 小学生ぐらいの子から、高校生ぐらいの子まで、その数12人。

 そして、青年と少女達が駅前のベンチに戻ってくる。

 少女達は、みんな一様に身体を伸ばしたり、深呼吸したりと、身体をほぐすような仕草をしている。

「ここが、これから私達が暮らす街なのですね・・・」

 その中の一人、おそらく最年長であろう紺色の袴をはいた少女が、辺りを見回して呟いた。

 そよ風にふわりと揺れる艶やかな黒髪・・・。その腰ほどまである髪の、サイドと後ろ下半分を三つ編みにしている。

「そうですわね・・・。前に住んでいたところよりもずいぶんと北の方ですので、まだまだ寒いのかと思いましたけど・・・全然そんな事ないですわね」

 それを受けて、何処かのんびりとした雰囲気の少女が言う。

 ショートボブに切り揃えられた髪・・・。頭の上に、ちょこんとベレー帽が乗っている。

 トロンとたれた目で風を追うように顔を動かす。

「ルルたんは寒いのイヤらぉ! だから、ポカポカでよかったぉ〜」

 12人の中で一番幼い少女が、そう言って嬉しそうに両手をあげる。

 大きなボンボンで左右に結んだツーテールの髪が、ピョコンと可愛らしく揺れた。

「はは・・・ルルは寒いの苦手だものね。でも、もう春だし、当分の間は寒い思いしなくてすむから安心していいよ」

 青年は、そう言って幼い少女に微笑みかける。

「それにしても、急に『引っ越しだ〜っ』なんて言われたときはどうしようかと思ったけど・・・・・何とかなるもんだね。でも、大急ぎで荷造りとかやったから、ボクもうくたくただよ・・・」

 そう言いながら、いかにも疲れた〜と言う風に肩を落とすのは、ボーイッシュな雰囲気の漂う元気な少女。

 くて〜っとしたポーズをしていても、あふれ出るようなはつらつさ。それが、この少女の性格を物語っている。

「ふふ・・・もう、ツバサちゃんったら。でも、こうやってお引っ越しするのもご主人様のご就職が決まったからなんだもの。嬉しいことだわ。ご主人様、改めて言わせていただきますね。ご就職おめでとうございます!」

 青年の隣に立っている少女が、日だまりのような笑みを浮かべる。

 それは、見ていると誰もが穏やかな気持ちになれるような・・・そんな、暖かで優しい笑顔。

「うん、ありがとう! ラン。これも、みんなが応援してくれたおかげだよ」

 そんな少女に、ご主人様と呼ばれた青年も優しい笑みを返す。

「そ、それにしても、モモ達本当にこんな遠くの街まで来ちゃったんですね・・・。知らない人ばっかりだから、なんだか怖いです・・・」

 おとなしそうな少女が、そう言って側にいた年上の少女の服をギュッと掴む。

 どうやら、かなり人見知りをする性格らしい。

「大丈夫だよ。ご主人様もいるし、私達もいる。どんな所でもそれは変わらない・・・。私達は、ずっと一緒にいる運命なんだからね・・・」

 服を掴まれた少女がそんな風に答える。

 長い髪を頭の後ろで一つにまとめ、ポニーテールと言うよりは、フォックステールと言った方がしっくりくるような髪型の少女・・・。実際の年齢は12才なのだが、それよりかなり大人びた雰囲気を持っている。

「そうなの〜。クルミ達がついているから大丈夫なの。それに、クルミはこの街での生活、とっても楽しみなの〜。きっと、美味しい物たっくさんあるだろうし、それを考えると・・・もう涎じゅるじゅるなの〜〜〜」

 プクプクとしたほっぺたの、色気より食い気という言葉をそのまま形にしたような、お団子頭の女の子は、そう言いながらぽわわ〜んと夢見るような表情を浮かべる。

「それにしても・・・なんで普通列車なんかで来たの、ご主人様〜。おかげで、朝から今までず〜っとマスコット姿・・・。退屈だし窮屈だし・・・もう、身体のあちこちが凝っちゃったわよ・・・。あ、でも、それはご主人様だって同じよね・・・? だったら、ねぇ・・・ご主人様・・・、ミカがご主人様の身体をやさし〜く揉んであ・げ・る」

 ウサギの耳のようにピョコンとはねた髪型が特徴的な、フェロモンたっぷりの少女が、手をワキワキさせながら青年に近づいていく。

「あ、いや、ミカ・・・僕はそんなに肩凝ってないから・・・。あ、あはは・・・」

 ジリジリとにじり寄ってくる少女。それと同じ速度で後ずさりながら、冷や汗を浮かべて困ったように笑う青年。

 そんな二人の間に、小柄な人物が割り込んでくる。

「もう、ミカお姉ちゃん! 一体なにやってるんですかぁっ。こんな街中で、ご主人様にちょっかい出さないで下さい! そもそも、普通列車を使ったのは、その方が運賃が安いからです。それに、みんながマスコットになっていれば、その分の運賃は払わなくて済みますから。ただでさえ家は人数が多くて、食費やらなにやらがかさんでいるんですから、こういう節約できるところでしていかないと・・・。それに、引っ越し代も結構馬鹿になりませんでしたし・・・」

 眼鏡を掛けた、いかにもしっかりしていそうな少女は、どこからともなく算盤を取り出すと、パチパチとそれを弾き始める。

 そんな中、みんなの輪からはずれて道端にしゃがみ込んでいる少女が一人・・・。

「わぁ・・・こんな所にアリさんがいるれすぅ・・・。一体何処に行くんれしょうねぇ・・・」

 そんな事を呟きながら、アリの行列をじっと観察している少女・・・。

 どうやら、他の少女達とは少しばかりテンポがずれているらしい。

 騒がしいながらも、楽しげな光景・・・・。そこには、暖かな家族のような雰囲気が確かに感じられる。

 そんな少女達を穏やかな笑みを浮かべて眺めていた青年の服を、誰かがツンツンと引っ張る。

「ねえねえ、ご主人様っ。早くナナ達のお家に行こうよ〜。ねっねっ、早く早くー」

 そこにいたのは、髪の毛を両サイドでおさげに結んだ、元気一杯の少女。

 もう待ちきれないと言った風に、足をパタパタと動かしている。

「はは・・・、分かったよナナ。いつまでもここにいてもしょうがないし、そろそろ出発しようか」

 そう言うと、青年はリュックを背負い、みんなを呼び集めた。

「おーい、みんなー。そろそろ出発するよー」

 すると、少女達が一斉に青年の周りに集まってくる。

「それじゃ、行こうか」

 ぞろぞろと、歩き出す一行。ちなみに、かなり目立っている。

 なにしろ、青年の周りにいる少女達は、いずれもかなりの美少女・・・更に年齢もバラバラなので、その関係が読めないのだ。

(う・・・参ったなぁ・・・。予想はしていたけど、まさかここまで目立つとは・・・)

 苦笑いを浮かべる青年。

(こんな事なら、みんなには家に着くまでマスコットのままでいてもらった方が良かったかなぁ・・・。でも、それだとちょっと窮屈で可哀想だし・・・)

「ところでご主人様。その新しい家の場所って言うのはお分かりになっているんですの?」

 色々と考え込んでいた青年に、ベレー帽の少女が話しかけてくる。

「うん、それなら大丈夫だよ。ちゃんと地図もあるし。ええと・・・確かここに・・・」

 リュックの中を、ゴソゴソと探り始める青年。

「・・・・・あ、あれ? ここに入れたと思ったのに・・・」

「どうかなさいましたか? ご主人様・・・」

 なにやら様子がおかしい・・・。袴の少女が、心配そうに訊ねる。

 そして青年は、鞄の中身を全部出したりまた入れたりを何回か繰り返した後、少女達に向かって申し訳なさそうに言う。

「ゴ、ゴメン・・・。地図、なくしちゃったみたい・・・」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!』

 春の駅前広場に、そんな少女達の声が響いた。

 青年の名前は、睦悟郎。少女達----------守護天使と呼ばれる存在の、ご主人様である・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「うにゅ〜♪ イチゴサンデー、とっても美味しかったよ〜〜」

 俺の横を、名雪がご機嫌で歩いている。

「ハァ・・・。名雪はホントにイチゴ中毒だな・・・。体の中、血液じゃなくってイチゴの果汁が流れているんじゃないのか・・・?」

 俺は、呆れたように言う。

「わたしはそれでも良いよ〜。だってイチゴだもん」

「理由になってないだろう、それは・・・。」

 名雪は、俺の声など聞こえてないかのように、鼻歌を歌いながら歩く。

 今にもスキップか何か始めそうだ。

「やっぱりこの季節は、イチゴが凄く美味しいね〜。わたし、朝昼晩ずっとイチゴだけでも良いかも・・・」

 名雪がとんでもないことを言い出す。と言うか、名雪は季節に関係なく、一年中イチゴばっかり食べているような気もするんだが・・・。

「それにしたって、イチゴサンデー5杯は食べ過ぎだろう・・・」

「だって、百花屋のイチゴサンデー凄く美味しいんだよ。いくらでも食べられるよ。祐一も頼んでみればいいのに・・・」

「俺はいい。第一、名雪が俺に自分のイチゴサンデー食べさせようとするしな。それだけで十分だ」

 スプーンを俺に向かって差し出して、『はい、祐一、あ〜ん』とかやってくるので、恥ずかしい事この上ない・・・。

「でも祐一、恥ずかしくっても結局食べてくれるよね」

「なっ、どうして俺の考えてることが・・・って、もしかして、また俺、口に出してたか・・・?」

「うん。祐一、相変わらずその癖治らないね〜」

 なにが楽しいのか、ニコニコと微笑みながら名雪が言う。

 ああ・・・プライバシーってなんなんだろうな・・・。

 まあ、気を取り直してと・・・。

「ところで名雪。今日はこの後、特に予定とかないのか?」

 名雪にそんな事を訊いてみる。

「うん、特にこれと言ってないよ〜」

 ほわほわ〜っとした笑顔で答える名雪。

 イチゴサンデーを腹一杯食べられたのがよっぽど嬉しいんだな・・・。

「それもあるけど、それだけじゃないよ。祐一とこうやってデートしているのだって、わたしにとっては凄く嬉しいことだよ」

 ポッと頬を赤く染めて、名雪がそんな事を言う。

 どうやら、また口に出していたらしい・・・。

 それはこの際、まあいいとしよう・・・。

 しかし・・・

「お前はなんで、街中でそう恥ずかしいことを言うんだろうな・・・」

「恥ずかしいことかもしれないけど、わたしの本当の気持ちだよ・・・」

 く・・・顔がなんだか熱いぞ・・・。きっと真っ赤になっているんだろう。

「とにかく! もう予定がないのなら、俺の買い物に付き合って貰うぞ。さあ、駅前のビルまでダッシュだ!」

 照れ隠しに、俺は名雪にそう言い放つと、後ろも見ずにいきなり走り始める。

「わ、祐一、待ってよ〜」

 名雪の声が遠ざかる。

 最近暖かくなってきた所為か、名雪のラブラブ度が一段と上がってきたように思う。

 まあ、嫌じゃないんだが・・・。出来れば時と場所を選んで欲しいよなぁ・・・。

 そんな事を考えながら、商店街を駆け抜ける。

「祐一〜、置いてっちゃ嫌だよ〜」

 名雪の声がすぐ後ろで聞こえた。

 さすがは陸上部。もう追いついたのか・・・。

 名雪が横に並んだのを確認すると、俺はスピードを緩める。

 俺達に降り注ぐ、暖かな日差し。

 今日は何か良いことがあるかもしれない・・・。

 俺はなんとなく、そんな予感を胸に浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

つづく

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第2話へ


=後書き=

とうとうやってしまいました。KanonとP.E.T.S.のクロスオーバーSS。
P.E.T.S.には、原作の『P.E.T.S.』と、そのアニメ化作品『天使のしっぽ』の二つがあるんですが、一応その二つを混ぜたような設定で書いていこうと思ってます。
後、ご主人様を睦悟郎にした関係上、守護天使達の外見は天使のしっぽ版にしています。
よかったら感想下さいね〜。


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