| 第三十二話 死んだはずの女 前編 |
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| 1975年12月27日放送 |
暮れも押し迫ったある日の夜。 |
「事件は解決したんだ。犯罪の陰に泣く人間に一々同情してたんじゃ刑事は務まらんぞ」そう言って津坂を励ました関屋警部補でしたが…。 |
屋台のラーメン屋の女を見て表情が変わる。 |
重そうに口を開いた関屋警部補。「そんな馬鹿なはずないよな…死んだはずの女が生きているなんてな…」「死んだはずの女?」 そう、そんな馬鹿なはずはない。自分に言い聞かせるように関屋警部補は呟いた。 |
………五年前。関屋警部補がまだ捜査一課の刑事だった頃、ある麻薬事件の捜査で一軒のスナックに毎日通い、向かいのビルの張り込みをしていた。 |
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張り込み中、必然的に多くなる喫煙量。小さな灰皿はすぐに吸殻で溢れそうになる。それを絶妙なタイミングで交換してくれるウェイトレスがいた。 |
そのウェイトレスが、三村朋子という笑顔の可愛い気立てのいい娘だった。張り込みで緊張の連続の関屋警部補を和ませてくれていた彼女。関屋警部補は朋子の笑顔でかなり救われていた。 |
朋子にはフィアンセがいて、彼が訪ねて来た時はいつも以上の笑顔を見せていた。本当に幸せそうな表情の朋子。関屋警部補も釣られるかのように思わず微笑んでしまっていた。 |
張り込みは成功し犯人を無事逮捕して、朋子にお礼をとスナックに出向いた関屋警部補。だが、そこに彼女の姿はなかった。マスターに尋ねると、数日前に彼女本人ではなく男の声で突然辞めると連絡が来たと言う。 |
関屋警部補は不吉な予感を覚え、彼女が住んでいたアパートにも足を運んだが、そこでは朋子の兄と名乗る男が彼女の家財道具一式を全て処分していったと知る。関屋警部補は刑事としてこのまま見逃せない気がして、捜査を開始した。 |
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まず最初に訪ねたのが朋子のフィアンセの長尾だった。長尾が宿直だった夜に朋子が訪ねて来ていた事は警備員から聞いていた。しかし、警備員は朋子が帰る姿を見ていない。 そして、その夜から朋子の消息は途絶えたのだ。 「知りませんよ」しらばっくれる長尾。 |
『奴だ。奴が朋子さんを殺している』関屋警部補の刑事としての勘がそう教えていた。 |
どうしてもあの屋台の女が気になる関屋警部補は再び屋台の近くに立っていた。津坂もそんな関屋警部補が気になり、後を追ってきた。 |
大雨の後の土砂崩れの跡から白骨死体が発見された。発見された頭蓋骨から復顔した似顔絵を見る限り、外人かハーフの女らしい。 黒木は30歳までのここ四〜五年に行方不明になっている該当者を探すようGメン達に命じる。 |
捜査に向かうメンバーの中に関屋警部補がいない。「おい、関屋はどうした?」 すると響が答えた。「警視庁に行かれました」 「警視庁?」不審気な表情の黒木警視。 「いえ、何か個人的のことのようです」 |
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スナックに忘れていった長尾の手帳を届けるため、朋子はあの夜宿直だった長尾の元を訪ねた。そしてその後、行方不明になっていた。一向に口を割らない長尾に、関屋警部補が冷たく告げる。「お前の車のトランクから血液が検出されたぞ」その血液型はB。朋子の血液型もB型だった。 |
営業所の応接間の絨毯からも血液は検出されている。「仕方がなかったんだ…ああするしか…」 長尾は落ちた。 |
あの晩、朋子と交際していることを知った重役の娘に問いただされなんとか弁解し納得させて帰した後だった。朋子は見ていたのだ。「誰なの?あの人」見られたのなら仕方がないとばかりに、別れ話を切り出した長尾に朋子は絶対に別れないと言い張った。 |
打算的な男。ウェイトレスと結婚するより重役の娘と結婚する方がメリットは大きい。長尾の手にはいつしかペーパーナイフが握られていた。 信じられないといった表情の朋子。逃げようとした朋子の背中に長尾は容赦なくナイフを突き立てた。 |
長尾の供述の下、遺棄現場にて朋子の遺体を捜すが朋子の遺体は見つからない。長尾は朋子が生きているのでは?と希望的観測。だが、朋子が生きているなら警察に出頭してくるはずだ。結局、遺体は未発見のまま関屋警部補は長尾を殺人容疑で検察庁に送った。長尾は懲役十年の刑を言い渡された。 |
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今目の前にいる女は、あの三村朋子なのだろうか。翌日の夜も、関屋警部補はラーメン屋台で甲斐甲斐しく働く女から目が離せなかった。朋子が生きている…そんなはずが…。 |
屋台に行き声をかければ全てが解るというのに、関屋警部補の足は凍りついたようにそこから動かない。「関屋さん!やっぱりここだったんですね」 声に振り向くと津坂が立っていた。 「…津坂、お前だったらどうする?」 |
あの女が三村朋子だったら五年前の捜査で重大なミスを犯した事になる。責任問題になるのは必至だろう。だが何も見なかった事にすれば黙ってさえいれば何事も起こらない。「だったら俺にだって黙ってればよかったんだ!」 怒気を含んだ津坂の言葉に関屋警部補は我に返る。 |
「そうだったな。津坂、よく来てくれた!」意を決して関屋警部補は屋台へと向けて歩き出した。 |
「いらっしゃいまし、ご注文は?」明るく話しかけてくる女の顔をジッと見つめながら、関屋警部補は煙草に火を点けた。「確か一度お見えになったわね、ずいぶん前に」 「いや」「そうだったかしら。何だか一度お見かけしたことがあったような気がしたものですから」 |
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手元の灰皿で煙草の火を揉み消す。灰皿は吸殻で一杯だった。「あら、ごめんなさい!」サッと新しい灰皿を差し出す女。 以前、スナックでもよくそうして灰皿を取り替えてくれた。 女の記憶が呼び起こされた。 |
「朋子さん…三村朋子さんですね?」「いいえ、人違いです」 女は即座に否定した。 「…ラーメンを」注文の言葉も耳に入らない様子だ。 明らかに女は動揺している。 |
「何故隠すんです」再度の問い掛けも女は否定した。動揺を隠すかのように、女は一気に水を飲み干した。 女に五年前どこにいて何をしていたかと尋ねても答えはない。五年前の恋人だと長尾の写真を女の前で見せる。 |
「恵美子」その時男が顔を出した。 「お客さん、女房に妙な因縁ふっかけないでほしいな」 五年前の恋人だと?その頃には俺達は一緒になってたよ。 男ははっきりとそう言った。 |
関屋警部補は黙って一万円札を出すと「お釣り」。慌ててつり銭を用意する恵美子に気付かれぬよう、関屋警部補は彼女が水を飲むのに使用したグラスをそっと持ち帰った。 |
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