6B4G全段差動プッシュプルアンプ

(2003年9月製作、2004年3月改造)

 

 

前書き

 今回のテーマは直熱管です。使用するのは6B4G、なぜこの球かと言うと手元にあったからです。(おいおい!)職場の先輩から2本頂いて、シングルアンプ(キット)を製作した思い出の球です。私が真空管アンプに目覚める原因となった球でもあります。その後全段差動プッシュプルアンプを製作したためお蔵入りとなっていましたが、復活の時が来ました。全段差動ですから4本必要ですが、ちゃんと予備球としてもう2本も格安で譲ってもらっていたので、揃っています。National Electronicsブランドの球です。2本はMaid in U.S.A. もう2本はMaid in Englandと表示がありますが、どちらも旧ソ連製らしいです。(原産地表示は最終製品検査を行った国でよいと、聞いたことがあります。)

 

設計

 出力段を6B4Gに決めると、2段構成ではゲインが足りません。だからと言って単純に3段構成にすると、低域と高域の時定数が増えて、発振しやすくなります。そこで初段にはFETを使用してドライバ段と直結します。(ん? どこかで見たような構成だぞ。) ドライバ段はこれまた手持ちの5814A(=12AU7)決めました。トランスはソフトンのRX−40−5を購入済みだったのでこれを使用します。このトランスは2次側が6Ω負荷の時に1次側が5kΩ(p-p)です。差動プッシュプルの場合は動作点を決めるのにトランスのインピーダンスの半分にしてシングルと同じロードラインを引けば良いので負荷インピーダンスは2.5kΩとなります。するとVp=250V、Ip=60mAという2A3(=6B4G)の広く知られた標準的な動作点が出てきます。しかし、ここでいつもの悩みです。電源トランスに適当なものがない! ステレオアンプだとドライバ段も含めて260mA位の電流容量が必要ですが、電流で選ぶと電圧が高すぎます。そして値段もお高いです。世の中にはA級プッシュプルアンプに適した電源トランスが本当に少ないです。一時はモノラルアンプ2台構成も考えましたが、このクラスではなんとも大げさです。そこでちょっぴり妥協してIp=50mAの動作点で考えてみます。これなら出力段の電流は200mAとなり、ドライバ段を含めても220mA程度です。これならばちょっと定格オーバーですが、電源トランスにノグチトランスのPMC−200Mが使えそうです。(定格オーバーでの使用は、あくまでも自己責任です。念のため!)

 PMC−200Mの2次側電圧は250Vと280Vで、250V端子をシリコンダイオードで整流すれば約300Vが得られるので、Vp=250Vにカソードバイアス約50Vを足すとぴったりです。が、個人的な設計思想では、50V×100mA×2(ch)=10Wの熱源をシャシ内に入れるのは、勘弁して欲しいところです。(実は、たくさんの放熱孔を整然と開ける腕がないので、なるべく放熱孔を開けなくても良いようにしたいだけです。) そこでこれまで通り、グリッドを負電源で引っ張って、カソード電圧を低くする半固定バイアスを使います。負電源と初段のFET用電源は独立巻線の70Vから半波整流で作ることにしました。動作中における出力段のカソード電位の変動分を吸収するためカソード電圧は約20Vとします。このため負電源は−30V程度が必要となります。カソード電圧が20Vだと、Vpは280V程になります。プレート損失は14Wと許容値ですが、動作点は良くありません。出力トランスの1次インピーダンスが8kΩp-pだとバッチリなのですが、今回は5kΩです。電圧を下げるのにダイオードの整流電圧を抵抗でドロップさせたのでは、シャシ内で発生する熱量は変わりません。さぁ、どうしましょう。そこで登場したのが、これまた頂いた整流管5U4GBです。ヒーターは必要だし、電圧降下も大きいので、積極的に使う気にはなれなかったのですが、今回は適材適所(?)です。発熱部分はシャシの上だし、整流管はシリコンダイオードに比べて同じトランスでも出力電流が少し多く取れると言われています。

 初段のFETには昔からある定番の2SK30Aを使い、コントロールアンプの使用を前提とし、入力ボリュームを省いた、純粋なメインアンプとしました。これで大体の条件が決まったので回路図を書きます。おっとその前にスピーカを8Ωとした時の出力管のロードラインも検証しておきましょう。こちらはインピーダンス3.3kΩとなってVg=0Vの時のIpが約100mAとなり、無信号時の2倍。差動出力段のセオリー通りの動作です。良かったよかった。

 最初に書いてみた回路図はこの通りです。実際に製作していく上での変更点についてはこの中に顛末を記しています。なお直熱管の場合ハムバランサとして半固定抵抗が使われる事が多いのですが、今回は固定抵抗で中点を引き出す方式にして調整部分を設けませんでした。これは直流点火でリップルが少なければ、中点固定でもハムの大きさは許容範囲に入るだろうとの考えです。

 回路が決まったら次は実装設計です。まずシャシはノグチトランスでPMC−200Mの取付穴が開いている「お助けシャーシ」が手ごろな大きさで値段も安かったので、購入しました。(2004年3月現在、電源トランスとお助けシャーシのセット販売に変わっています。残念ながら、PMC−200Mはそのリストから漏れています。) 但し、電源トランスの実装位置が決まっているので、デザイン的には制約を受けます。あれやこれやと並べてみた結果、以下の配置(概略)となりました。


実は(シャシ上面が)初の左右非対称デザインです。

 そして今回はこちらも初の裏蓋なしです。シャシ底面が4面折り返しになっており剛性は確保されていたので、メンテナンスが楽になるようにしました。 入力ボリュームがないので、初段のFET増幅回路を入力端子の直後に配置して線材の引き回しを最小にすることが可能となりました。またスピーカ端子からのNFB配線も短くてすみます。

 回路は機能ブロック毎にユニバーサル基板と平ラグ板を使い分けて製作します。出力段の定電流用IC(LM317)やヒーター電源用シリコンブリッジダイオードにはフルモールドタイプを使い、放熱のためのシャシへの取付を容易にしました。

 

製作と調整

当初の製作記

 製作はシャシ加工からですが、大物の電源トランス用の穴が開いているので、後は殆ど丸穴ばかりです。それほど苦労しなくてすみました。塗装は当初アルミ建材用のスプレー塗料を考えていましたが、思ったような色がなかったので、一般的なアクリル塗料にしてみました。色はブルーメタリックです。但し、アルミ専用塗料と比べて塗装の食いつきは悪いようです。何回も重ね塗りしたのですが、製作中に部品が当たったところが剥げてしまい、後でリタッチをしました。またサイドにはウッドパネル(ラワン合板に木目シートのお手軽タイプですが)を付けます。そのままだとアルミ板の継ぎ目が見えてしまうためですが、このサイドパネルがあると、調整のためアンプを引っ繰り返す時に、塗装面を擦らないので取り扱いが楽です。部品の実装と配線はノートラブルで進み、各部チェック終了後にNFBなしで音を出してみたところ、一発で音が出ました。(ここまでは)順調です。外観はこんな感じに出来上がりました。

 さて実はこれからが大騒ぎです。(こんな物が出来ましたとだけ報告すれば、格好良いのですが、初心者が拙い設計の自作品でホームページを作るからには、トラブル報告の方がご覧の皆様にはお役にたつのではないかと、恥をしのんで大公開です。)

 負電源の出力が設計より2V程低いです。チェックをしたところレギュレータの入力で電圧不足です。ダイオード整流出力が100V程度になるので、レギュレータ入力の前に抵抗(4.7k)を入れて電圧を下げていたのですが、レギュレータ自身の消費電流の見積もりを間違えたために、抵抗での電圧降下が過大になっていました。そこで手持ちの抵抗を並列接続し、レギュレータの入力電圧が適正になるようにしました。初段用の正電源も出力電圧の不足こそありませんでしたが、マージンが少なかったのでこちらも変更しました。

 出力管のヒーターは2本まとめて直流点火しています。リップルフィルタは22000μ×2と0.47Ωのπ形フィルタだったのですが、出力電圧が5.5Vしかありません。結局抵抗を取り去って6.2Vとなりました。抵抗を取り去った状態でヒーター回路のリップルは0.092V(テスター測定)です。

 音は出たし、NFBの極性もあっているようなので、NFB量を決めるために利得を測定していたら、いきなりゲインが変動しました。あれれ? 一旦電源を切って各部電圧をチェックして見ましたが、出力段のカソード電圧がふらふらと動くのが気になります。暫く見ていると、なんと60Vになってしまいました。まずい!ICの定格オーバーです。飛んじゃったかな? 直ぐに電源を切って原因を考えてみます。定電流回路は発振しやすいと聞いているので、発振しているのかもしれません。発振止めには定電流回路の吸込み端に抵抗を付けるのが有効らしいのですが、ハムバランス用に入れている抵抗がその役目を果たしているはず(?)です。

 おそるおそるもう一度電源を入れてみたところ、電圧はふらふらしますが、値は正常です。良かった、ICは飛んでないようです。そこで超高域のインピーダンスを下げるため、微小容量を定電流回路に並列に入れてみました。ダメです。まだふらふらしています。そのうちにまたポンと60Vになってしまいました。今回は出力管のグリッド電圧を測ってみましたが、わっ!+160Vです。何でだ? 

 ここまでで経験豊富な方は原因について推測がついた事と思いますが、当方は暫く悩んでしまいました。症状から見れば熱暴走と呼ばれる現象によく似ています。(6B4Gはそんなに暴走する球ではないとの意見もありますが。) 6B4Gのグリッド抵抗は自己バイアスで500kΩ以下、固定バイアスで50kΩ以下とされています。今回は固定バイアスと定電流回路によるバイアスを併用しており、定電流回路がバイアス電流の安定化に寄与するとの考えで、グリッド抵抗に270kと高めの値を使っていましたが、これが裏目に出ました(高い値にしたのは、段間コンデンサとグリッド抵抗で決まる時定数を下げて低域特性を欲張ったからです)。そこでグリッド抵抗を56kに変更してみたところカソード電圧の変動はきれいに収まりました。定電流回路のLM317も飛んでいません。(案外、丈夫じゃないですか。)

 改めてNFB無しで利得と周波数特性を測ってみます。利得はLchが16.6倍(24.4dB)、Rchが13.6倍(22.7dB)で、仕上がり利得をこれまでのアンプに合わせて5.6倍(15dB)とすれば、負帰還の量がちょっと多めになります。果たして安定した負帰還がかけられるでしょうか。周波数特性の方は10Hz〜65kHzで−1dB以内に入っており、さすがに3段構成で出力管のドライブインピーダンスを下げただけのことはあります。但し気になるのは340kHz辺りに結構大きな山が【平坦領域に対して−9.2dB(両CH)】ある事です。NFBをかけた時に暴れなければよいのですが。取り敢えず位相補償コンデンサとして200pFをいれる(時定数は360kHz)ことにしました。

 これで利得を5.6倍に調整して再度、周波数特性を測ってみます。高域の−1dB点は120kHzまで伸びました。340kHz辺りのピークも−5.5dB(Lch)、−6.8dB(Rch)とNFB無しの時と比べて大暴れと言う印象はありません。音を聞いてみましたが、引き締まっていて結構いいじゃないですか。ついでに容量性負荷に対する耐性をチェックするために、0.1μFのみを負荷とし、10KHzの方形波を入力してみました。ちょっとリンギングは出ていますが大丈夫! ではありませんでした。見事に発振、周波数は450kHz。抵抗負荷の時は大丈夫でしたし、NFBを掛けなければ容量負荷でも発振しませんから、位相特性の余裕がないことは明らかです。仕上がり利得を高め(10倍程度)にしてNFB量を減らす手もありますが、一旦発振を始めるとNFBを少なくしても発振は継続するので、不安定なアンプになってしまいそうです。やれやれ・・・・・

 出力段の高域時定数は殆どトランスで決まってしまうので使用トランスの特性から140kHz程度かと思われます。(善本さんのページを参照しました。) NFBを安定して掛けるためには、電圧増幅段の高域時定数を出力段に対して離す必要がありますが、(真空管にしては)広帯域を狙いたいので、時定数を低い方に持っていってスタガ比を稼ぐのはやりたくありません。正確な計算は出来ませんが設計上は電圧増幅段の時定数を出力段に比べてかなり高い所に持っていった筈なのですが、実装技術が悪いのか(それとも直熱管のためヒーター回路がカソードに入っているのが悪さをしている)?

 まずは前作6BX7GTparaでうまくいったクロス中和を使って、ミラー容量を減らし時定数を高められるかどうか実験してみます。(二匹目のどじょう作戦) しかし今回は惨敗でした。周波数特性は多少変わるのですが、容量負荷時の発振を止めるには力が及びません。そこで今度は裸(NFB無し)ゲインを抑える事を考えてみます。色々な方法が考えられますが、一番簡単なのはカソードに抵抗を入れて局部電流帰還を掛ける事です。対象はドライバ段の5814Aとします。出力段の6B4Gは2本まとめて直流点火しているので、この手が使えるのは初段かドライバ段となります。初段にはバランス調整用に既に低抵抗が入っていますし、小さなユニバーサル基板に組んでありますので面倒です。

 さて5814Aにどれくらいの抵抗を入れるかですが、NFBとして5dB程度は掛けたいのでトータルの裸ゲイン10倍(20dB)が目標となります。現状はLchが24.4dB、Rchが22.7dBですからおおよそ3〜4dBのゲイン低下となります。今回の5814A動作条件を眺めるとVg変化1.5VでIp(=Ik)が1mA変化します。Vg変化に起因するIkの変化(これは何て言うんだろう)を抵抗で表すと1.5kΩです。カソードに抵抗を挿入するとVgが分圧されてゲインが下がります。680Ωを入れると1.5/(1.5+0.68)=0.688(−3.2dB)になる計算です。実際に入れて測ってみましょう。結果はLchの利得が10.72(20.6dB)、Rchの利得が9.02(19.1dB)となりました。ほぼ目論み通りの値です。

 周波数特性は高域の1dB低下点61kHz(Lch)、55kHz(Rch)となり、340kHzのピークは−10.4dBです。NFBを掛けて利得を15dBに調整し、恐る恐る10kHzの方形波を入力し0.1μFの容量負荷としてみます。やったぁ、発振しません。リンギングも殆ど見られません。負帰還は安定して掛かっているようです。周波数特性を測定すると高域の1dB低下点が85kHz(Lch)、75kHz(Rch)で、340kHzのピークは−7.5dB(Lch)、−8.1dB(Rch)です。これで一応良しとしましょう。

 続いて歪み率を測ってみました。全段差動アンプに共通の弓なりカーブのきれいな特性です。最低歪み率は約0.06%で、6Ω負荷時の5%歪み出力は5.5W(両ch共)となりました。えっ、6B4Gならシングルでも4W以上出るでしょう? 随分と小出力じゃないですか。 実はこれ電源容量の関係でプレート電流を抑えたためです。8Ω負荷ならば動作条件が少し良くなるので6.3W(両ch共)となります。それにしても少ないですか? じゃここでちょっと実験(測定のためLchだけ)プレート電流を60mAにしてみます。負荷抵抗は6Ωで、1W出力時の歪み率が0.09%に低下、5%歪み出力は8.5Wに増大しました。この出力だったら納得して頂けますか?(やっぱりツインモノラル構成にして最適動作点を追求すべきだったかなぁ。)

改造

 製作したアンプの出力管がちゃんと実力を発揮できてないのは、出力管にかわいそうです。(えっ、こんな事を思うのは私だけですか?) そこで6AC5GT全段差動の改造で下ろした、OPT EF−25−8を搭載する事にしました。RX−40−5とFE−25−8は取付寸法が一緒です。但し楽をしようと中央の穴を小さく開けていたので、そのままでは載りません。考えた末に部品を全部取り外して、再製作することにしました。その際は剥がれやすい今の塗装を全面的に塗り替える事にします。その他に部品配置の影響から来ていると思われる左右チャンネルクロストークが片方向のみ悪い問題も解決すべく、配置をいじりましょう。そう、その前に新しい動作点を述べておくと280V、50mAです。B電圧が上がるため、ドライバ段のプレート電圧も上昇しますが、現状のままでもドライブ可能なので、こちらはいじりません。

 部品を下ろして、OPTの取付穴を大きくしました。その他若干の穴開けを行い、次は塗装替えです。今は塗装剥離材なるものがあり、塗料の上から塗って暫くすると、塗装が剥がれてきます。ヘラや布で拭って、残った分は水洗いすると落ちてしまうという便利さ! 知らなかったなぁ。で、アルミ建材用の塗料で塗り直した色は、シルバーメタリック。随分と地味な色ですが、適当な色が無かったのでこれを選択しました。その後、部品を再実装して、組み立て直します。出来上がりはトップ写真の通りですが、やはり塗色で随分と印象が違います。後ろ姿はこんな感じです。

 この写真で気付かれたと思いますが、整流管5U4GBが、何だか得体の知れない物に変わっています。これはOPTの変更により6B4Gの動作点が変わり、高電圧が必要となったためです。ドロップ電圧の大きい整流管からシリコンダイオードに変更しました。但し、実装は既存のUSコネクタを活用して、適合するプラグを持ったアクリルチューブの中に組んでいます。その辺りを含めた変更後の回路図はこちらです。
 ドライバ段のカソードに入れている局部帰還用の抵抗は680Ωから510Ω(Lch)、(但しRchは入力段FETの利得差をこちらで補正するために270Ω)に変更しました。整流用シリコンダイオードの回りは、複雑に抵抗が入っていますが、手持ちの抵抗とB電圧を見比べながら選んだ結果です。また出力管のヒーター直流点火用のブリッジダイオードはショットキ・バリア・ダイオードに変更して、ヒーター電圧をアップしました。内部の様子(新旧)は以下の通りです。

 

特性の測定

 特性概要は以下の通りです。(記載のないものは8Ω負荷) 今回は少し出力が大きいので、帰還後の総合利得を従来の作例の15dBから17dBへ上げています。

  

L ch

R ch

総合利得(無帰還)

11.09 (20.9dB)

10.47 (20.4dB)

負帰還量

3.9dB

3.4dB

総合利得(帰還後)

7.08 (17.0dB)

7.08 (17.0dB)

ダンピングファクタ(1kHz、無帰還) 3.36 3.26
ダンピングファクタ(1kHz、帰還後) 5.65 5.24
残留雑音(帰還後、無補正)

0.31mV

0.42mV

最大出力(1kHz、歪み5%)

8.2W

8.2W

最大出力6Ω時(1kHz、歪み5%)

7.1W

6.8W

消費電力

128.1VA (AC 102.5V)

 特性図(グラフ)はこちらです。


 

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