額井岳を背に、棚田を見ながらの農道を下ると前方に室生湖が・・・。

 十八神社からの眺めを存分に楽しんだ後、目の前にどっしりと構える額井(ぬかい)の方へと歩を進める。
 大和富士とも呼ばれる額井岳の山裾を少し登ると、やがて薄暗い木立の中に、東屋が見えてくる。その奥には、万葉歌人山部赤人(やまべのあかひと)の墓が見えてくる。しかし、ここには説明書きが2つあって片方には「この墓が本当に山部赤人の墓であるかどうかは定かではないが、古くから村人たちは、山部赤人の墓だと信じている」と書かれている。しかし、この看板はなぜか「山辺赤人」となっている。

 墓から田んぼや畑を両脇に見ながら、舗装道路を歩いて行くと、左手に長い石段が現れる。戒長寺(かいちょうじ)である。
 息を切らしながら150段ほどの石段を登ると、こじんまりとした境内につく。今はひっそりとしているが、藤原時代には戒律道場として隆盛を極めた寺だとか。境内に立つオハツキイチョウの巨木は県の天然記念物。秋には、黄色い絨毯の敷かれるさまをおさめようと、カメラマンが集まってくるらしいが、まだまだ、葉は緑である。
 その大木は地上5mくらいの高さから、枝のようなものが垂れていて、ちょっと異様な雰囲気を漂わしている。退化した根らしいが、地元のお年寄りは、「木のお乳」だと孫に教えたりしているとも聞く。
 (5年ほど前に歩いた「葛城古道」一言主神社の境内にある樹齢1200年のイチョウの木も、このようになっていたのを思い出す)

 境内には戒場神社という神社も同居していて、こちらには大きなホオノキがある。

 戒長寺からは、額井岳を背に、棚田の中を走る舗装道をひたすら下る。下りきった所が国道165号線。すぐ右側、小川を渡るとに白い鳥居の(くず)神社がある。
 神社に立寄った後、国道を渡って田んぼの中の農道を行くと、すぐに近鉄大阪線をくぐる。そのまま道なりに行くと、室生湖(ダム湖)が見えてくる。案内書を読めば、この湖は宇陀川を堰き止めた人造湖だが、天然湖にも負けない美しい湖である。

 室生湖に架かる地蔵橋を右に渡る。左手に白っぽい吊り橋(赤人橋)が見える。東海自然歩道とはここでお別れだ。振り返ると、額井岳の山裾に棚田が広がる。さっき歩いたあたりか・・・。

 ここからしばらくは、深閑としたダム湖畔の道を行く。
 「落石注意」の看板が立っている。見上げると大きな岩が続く。「ここで、岩の下敷きになったら、誰が見つけてくれるのかな・・・」と相棒と話す。誰にも行き先を言わずに出かけているのだ。ところどころで、湖岸に降りて釣り糸を垂れている人を見かけるだけで、われわれのように歩いている人影はない。しばらくは発見されないかも知れない。

 秋の太陽が西に傾きはじめたところでもあり、木々の間から見える湖は、実に素晴らしい。今日はほとんど風が無く、水面が鏡のように山並みを映している。まだ少し早いようだが、山の色づく頃はきれいだろうなと思う。

 左手に湖を見ながら歩くこと1時間足らずで車道に合流。右へ折れて、田畑や民家のあるゆるやかな上り坂をしばらく行くと、峠を越え、視界が開ける。正面に棚田があり、左手には榛原の町が見えてくる。手前には近鉄の線路が左右に伸びる。再び線路に近づいて行くと、下りきったところに天満神社がある。神社で一服、持っていたミカンなどを食べる。水筒のお茶も飲み干す。

 天満神社からゆるやかな坂道を上がること10分ほどで、左手少し高くなった所にあるゴール地点の美榛(みはる)温泉へ到着、4時30分だ。ゆっくり温泉に浸かる時間はある。道路側の建物が日帰り温泉の施設で、後ろには宿泊設備もある。大きな保養施設である。
 日帰り温泉客は、大きな窓のある大浴場と、ジェット噴流のあるローリングバスの2種が利用できる。建物自体が高台に建っているため、大浴場からの眺めもいい。しかし、ぬるっとしたお湯に最初ちょっと驚かされる。しかし、奈良県初の治療泉とあって、お湯の効能もかなりのものらしく、とりわけ神経痛や関節痛に効くとの評判らしい。パンフレットには「美人の湯」と書かれている。精一杯、手足を伸ばして、ゆっくりと湯舟に浸かる。入湯料の500円は高くないと思う。

 温泉に入って、歩いた疲れを癒した後、外に出ると、ちょうど正面の山に、赤い大きな風船のような夕日が、今にも沈むところだ。急いでカメラを向けシャッターを切る。「タイミングが良かったね」と相棒が微笑っている。わたしは朝日より夕日が好きだ。
 わたしは、日が落ちて暗くなるまでの、しばらくのこの時間、一つ、二つと、灯りが点いてくる風景が好きである。とくに、秋のこの時間帯はいいなと思う。

 近鉄榛原駅までは、美榛苑の無料送迎バスを利用することもできるが、バスは毎時0分発で、ちょっと時間があるので、歩くことにする。

 

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