「大きな魚と小さな魚」

児童文学 札幌市民芸術祭奨励賞受賞

村松 麻衣子 作

ある日、海で二匹の魚が出会った。大きな大きな魚と小さな小さな魚だった。
「こんにちは。」
「やあ、こんにちは。」
二匹は、お互いにあいさつした。大きな魚が小さな魚にたずねた。
「君、どこからきたんだい」
小さな魚は答えた。
「ずっと遠くの海からずっとずっと泳いできたんだ。あんまり天気が良くって気持ちいいからさんぽでもしょうとおもってね。」
「へえ、そんなに遠くの海から来たのか。たくさん泳いでくたびれただろ」
「うん、少しくたびれたな。」
小さな魚は、うなずいた。
それを聞いて大きな魚が嬉しそうに言った。
「それじゃあ,ぼくの家へおいでよ。」
「いいのかい。」
「うん。家でゆっくり休んでいってよ。」
 二匹は、大きな魚の家へ向かった。
大きな魚の家には、いろいろな物が置いてあった。石を積み重ねて作ったテ−ブルといす。ベットにソファ−。それにタンスまであった。どれもぜんぶ大きいかった。
「わぁ、大きなベットだね。ぼくが二十人に、寝れるね。いや、三十人かな。」
小さな魚は、目を丸くしておどろいた。
「この家もぼくの家よりずっと大きいや。」
「君の家は、どこにあるんだい。」
大きな魚が聞いた。
「ここからずっ−と遠くまでいった海だよ。そこにぼくの家があるんだ。小さなテ−ブルとベットしかないけれどね。」
「君の住んでいる海ってきれいだかい。」
「うん。とってもきれいだよ。サンゴや貝がらがたくさんあってきらきら光っているよ。それに他の魚もたくさんいてにぎやかだし、イカやタコもいるよ。ヒトデやイソギンチャクだっているよ。」
「そんなににぎやかならぼくも行ってみたいなぁ−。」
大きな魚は、つぶやいた。
「ここの海は、広いけれどさびしいんだ。魚もあまり住んでいないし、貝がらやサンゴも光っていない。それに時々、海水浴に来た人達が捨てていったゴミが流れてくるんだ。」大きな魚は、悲しい目をしていった。
それを見た小さな魚は、言った。
それじゃあ君もぼくの住んでいる海へおいでよ。ぼくの家で一緒に住もうよ。きっと楽しいよ。」
大きな魚は、少し考えてから首をふった。
「ありがとう。でも・・・やっぱりぼくここにいるよ。ここは、ぼくが小さい頃から住んでいた海だし・・・・・・。それにぼくは、大きすぎて君の家には、入れないと思うよ。」「そうか残念だなぁ。」
それから二匹は、しばらく黙ってしまった。すると大きな魚がパッと顔を上げて言った。「君、宝物って持っているかい。」
「えっ宝物。」
「そう宝物。ぼくの宝物は、これだよ。」
そう言って大きな魚は、タンスの引き出しから小さな箱を取り出した。そして、
「ほら、これ。」
ゆっくりとふたをあけると中には、きれいな色のビ−玉が一つ入っていた。
「これ、ぼくが赤ちゃんだった頃、見つけたんだ。だからとても大切にしているんだ。」「へぇ−、きれいだね。これが君の宝物かぁ−。ぼくの宝物は、何だろう。え−と、え−と、そうだ。ぼくの宝物は貝がらだ。ぼく、きれいな貝がらやおもしろい形の貝がらを集めるのが好きなんだ。家にたくさん飾ってあるよ。」
「貝がらかぁ−。今度ぼくにも見せてよ。」
「うん。いいよ。」
 それから二匹は、いろいろな話をした。海の話。家の話。家族の話。そして貝殻やサンゴの話。二匹は、たくさん笑ったり、よろこんだり、びっくりしたりした。そしてすっかり仲良くなった。大きな魚の持っていたビ−チボ−ルで遊んだり、小さな石ころをどちらがたくさん積み重ねられるか、ゲ−ムをしたり楽しく遊んだ。
やがて太陽も沈み始め、辺りが少しずつうす暗くなって夕方になった。
「ぼく、そろそろ帰らなくちゃいけないな。」
小さな魚は、さみしいそうに言った。
「えっもうそんな時間になっちゃったのか...。もっと話したいことがいっぱいあるのに残念だなぁ。でも、今日は、楽しかったよ。」
大きな魚もさみしそうに言った。
「ぼくも楽しかったよ。ありがとう。」
すると大きな魚が思い出したように言った。
「そうだ。きみ、満月って見た事あるかい。」
「満月?いいや見たことないなぁ−。」
小さな魚は、首をふった。
「今夜はちょうど満月の日なんだ。真っ暗な空に光る満月は、すっごくきれいだよ。ぼくのビ−玉やきみの貝がらと同じくらい、いや、もっともっときれいだよ。君も見てごらんよ。」
大きな魚は、目を輝かせていった。小さな魚は大きくうなずいた。
「うん。絶対見るよ。それじゃあ、また今度会おうね。」
「ああ。また今度会おう。」
 小さな魚は、自分の家へ向かって泳ぎ始めた。
大きな魚は小さい魚が見えなくなるまで、見送っていた。
その夜、まっ暗になった空に大きな大きな満月が輝いていた。大きな魚はその満月を見つめていた。小さな魚もその満月を見つめていた。大きな魚は思った。
「小さな魚は、元気かな。」
小さな魚も思った。
「大きな魚は、元気かな。」
そして二匹の魚は、思った。
「ぼくの一番大切な宝物は、友達だったんだ。」
二匹は、それぞれ違う場所で、同じ一つの満月をいつまでもいつまでも見つめていた。 次の日、空は、どんよりしていて今にも雨が降り出しそうな天気だった。大きな魚はそんな空を見上げながら、さみしい気持ちだった。大きい魚は誰よりもさみしがりやだった。ひとりでいるのがきらいだった。でも、いつもひとりぼっちでいる事が多かった。大きな魚には、家族はいない。お父さんとお母さんと一緒に暮らしたのは、赤ちゃんの時だけだった。体も少し大きくなって自分でエサをとれるようになると、大きな魚のお父さんは大きな魚に言った。
「おまえは、もう立派な魚になった。これからは、ひとりで生活していかなければいけない。私達のような体の大きい魚は、自分の力で敵から身を守って生きていくんだ。」
それ以来、大きい魚は一度もお父さんとお母さんに会っていなかった。今までずっと、ひとりで暮らしてきた。大きな魚は、本当は、お父さんとお母さんに会いたかった。でも、どこに住んでいるかわからない。それに今では、顔もほとんど覚えていなかった。大きな魚は、もう一度空を見上げてため息をついた・・・・・・。
次の日は、朝から雨だった。昨日と同じように悲しい気持ちで空を見上げていた大きな魚は、ふと思った。
「小さな魚に会いたいな。」
 でも、どうやったら会えるんだろう。大きな魚は、小さな魚の家は知らない。大きな魚は、何かいい方法は、ないかと考えた。しばらくして、やっと思いついた。
「そうだ。ビ−玉!」大きな魚は、この前、小さな魚に自分の宝物のビ−玉を見せたことを思い出した。
「このビ−玉を見れば、小さな魚は、きっとぼくのことを思い出してくれるはずだ。」
大きな魚は、たなに飾ってあったお酒のビンを持ってくると、その中に大切なビ−玉を入れた。
そして、しっかりとフタをして小さな魚が帰っていった海の方へ流した。
「どうかこのビンが小さな魚の所まで届きますように。」
それから何日も何日も大きな魚は、小さな魚が来るのを待った。でも、小さな魚は、今日も来なかったそれでも大きな魚は、海を見ながら毎日毎日待った。大きな魚は、小さな魚が来てくれると信じていた。でも、時々、少し心配になった。
「ぼくのビ−玉だって気付かないのかな。」
それでもやっぱり大きな魚は、待っていた。
そしてとうとう小さな魚はやって来た。海の向こうから泳いでくる小さな魚を見つけた時、大きな魚は、うれしさでいっぱいになった。小さな魚は、少し息をはずませて言った。
「やぁ、遅くなってごめん。君のビ−玉を見つけて、すぐにでも来たかったんだけど実は、ぼくの家引っ越しの真っ最中で、いろいろと忙しくてこれなかったんだよ。」
「それは、大変だったね。でも、来てくれてありがとう。さぁ、家に入ってよ。」
二匹は、いすに座り、テ−ブルに向かいあった。すると、大きな魚が言った。
「ぼく、君が来てくれるのを待っている間、ずっと考えていたんだ。」
「何を?」
「どうしてぼくが君に会いたくなったのかって言うことだよ。」
「うん。それでどうしてかわかったのかい。」
「ああ。今日わかったんだ。それは、友達だからだよ。」
「そうか・・・・・。友達だからか。」
小さい魚は、うなずいた。
「それからぼく友達ってなんだろうって思ったんだ。」
「それもわかったのかい。」
「うん。友達というのは、さみしい気持ちや悲しい気持ちの時、会いたくなる人のことだよ。ぼくひとりぼっちでさみしい時、君に会いたくなったんだ。君とこうして話していると元気になるんだ。それに心が温かくなるんだ。」
それを聞いて小さな魚は、少し照れくさかった。で、とってもうれしかった。
「友達っていいね。」
「うん」
それからに二匹は、小さな魚の引っ越しのことを話した。
「君の家どこに引っ越したんだい。」
大きな魚がたずねた。
「前にいた家より少し離れたところだよ。そこは、大きな岩がたくさんあって身を守るのにちょうどいいんだ。」
小さな魚はそう答えた。
「君って十人家族だったよね。」
うん。この前赤ちゃんが産まれて十人になったんだ。それで家が少し狭くなってきたから思い切って、引っ越しすることにしたんだ。それに広い家だったら君にも遊びに来てもらえると思って・・・・・。」
それを聞いた大きな魚は、涙が出るくらいうれしかった。そしてとても元気になった。それから二匹は、またいろいろな話をした。大きな魚は、小さな魚と一緒にいると、うれしさも二倍になって優しい気持ちになった。
そして夕方、小さい魚は、帰り際に大きな魚に言った。
「今度ぼくの家にも遊びに来てね。」
「うん。きっと行くよ。」
大きな魚は、うなずいた。その時、
「あっそうだ。ビ−玉!」
小さな魚は、そう言ってビ−玉を取り出した。
「これからは、君の宝物のビ−玉を見なくても、ぼくは毎日でも遊びに来るよ」。
「本当かい。」
「うん。約束するよ。ぼく達、友達だからね。ハイ、ビ−玉。」
そう言って小さな魚は、大きな魚にビ−玉を返した。でも、大きな魚は、受け取らずに言った。
「そのビ−玉、良かったら君にあげるよ。ぼくは、友達っていう、ビ−玉よりずっと大切な宝物を見つけたから。」
小さい魚は、ビ−玉を見つめて言った。
「ありがとう。だけどやっぱりこのビ−玉は、君が持っていてよ。だって、ぼくも友達っていう大切な宝物ができたから。ぼくは、貝がらと友達。君はビ−玉と友達。ぼくも君も宝物はふたつずつだよ。」
そして小さな魚は大きな魚にビ−玉を渡してゆっくりと家に向かって泳いで行った。
その夜、空には、たくさんの星と一緒に満月が輝いていた。大きな魚も小さな魚もその満月を見つめていた。大きな魚は満月を見つめながら思った。
「小さな魚も満月見ているかな。」
小さな魚も満月を見つめながら思った。
「大きな魚は、満月見ているかな。」
夜空の星と大きな満月に照らされて、二匹の魚は、輝いていた。大きな大きな光と小さな小さな光。どちらも同じくらいきれいだった。