「闇を払う銀の剣 後編」

 

 

 

 “それ”は、自らの数倍の大きさの士翼号と士魂号を弄んでいた。

 その気になればいつでも破壊することが出来ながら、けっして致命傷を与える事無く、弄んでいた。

 距離を置いて二番機士魂号=滝川が、ジャイアントアサルトを連射する。

 “それ”は避けようともせず周囲に展開した障壁で受ける。

 届かない銃弾。

 “それ”の前方に白色の魔法陣が展開、ホーミングレーザーを放出する。

 最小に弱められたレーザーが孤を描き、避けようとした二番機士魂号=滝川の胸部装甲を焼いた。

 ―――その刹那。

 攻撃の為に障壁が喪失したその瞬間を狙い、“それ”の死角から一番機士翼号=壬生屋が右腕の超硬度大太刀で切りかかった。

 士魂号では出しえない高速の踏み込みと斬撃!

 避けようのないその斬撃を、しかし、“それ”は異形の右手であっさりと受け止めた。

 左手の超硬度大太刀で追撃しようとする一番機士翼号=壬生屋。

 その攻撃が届くより早く、その胸部を“それ”の左腕が放った衝撃波が叩き付けられる。

 一番機士翼号=壬生屋があっさりと吹き飛ばされ、再び校舎に叩き付けられた。

 つまらない。

 つまらない。

 つまらない。

 つまらない。

 “それ”は思った。

 “絢爛舞踏”の存外の脆さからの落胆を、残った猿どもで遊ぶ事で拭おうと思ったのだが・・・・。

 もう、いい。

 遊びは、もう、終わりだ。

 まずこの辺りの猿どもを駆逐する。

 “それ”は、左腕のH−GUNを起動させようと――――――して、振り返った。

 言いようの無い感情が、“それ”を支配していた。

 その感情が“それ”を振り返らせたのだ。

 その感情を何と呼ぶか、“それ”は知らなかった。

 知り得る筈も無かった。

 何故ならば、“それ”にその感情を抱かせる存在は、今まで存在していなかったからだ。

 そう、今までは。

 その感情の名を、恐怖―――――。

 ―――――或いは、絶望と呼ぶ。

 

 

 

 「・・・来る・・・わ・・・」

 指揮車のガンナー席で萌が、ぼそりっと呟いた。

 その声に、運転席に座る、泣きはらした顔の祭が、萌を見る。

 「・・・・死を告げる・・・・・舞踏が・・・・来る・・・・」

 

 

 

 金属の軋む音を響かせ、三番機士翼号複座型が立ち上がった。

 H−GUNに焼かれたその機体は、まるで幽鬼のようにも見える。

 或いは、“死”、そのものに。

 「・・・・・殺す」

 士翼号のコックピットの中で、無表情に厚志が呟いた。

 まず、あの“竜”の偽物を破壊する。

 それも出来るだけ残酷に、苦しめて。

 その次は芝村の一族だ。

 そして、最後に六星どもを!

 この茶番を仕組んだモノ達は、誰一人として生かしてはおかぬ。

 ごうっ!!

 ジャイアントアサルトと超硬度大太刀を拾い上げ、三番機士翼号複座型が偽の“竜”に向かって突撃した。

 

 

 

 指揮車のモニターの中で、信じ難い光景が繰り広げられていた。

 先程まで、一番機と二番機を全く寄せ付けなかった異形の幻獣が、三番機にいいように嬲られているのだ。

 障壁を貫き、幻獣の甲殻を抉る弾丸。

 切り裂く大太刀。

 それらは、わざと致命傷を避けてあった。

 圧倒的な攻撃力で、幻獣を嬲る三番機士翼号複座型。

 「も、もう、止めて、止めてよっ、あっちゃん!!」

 祭が三番機に向かって叫ぶ。

 「なっちゃんを殺さんといてぇ」

 その声にギョッとして瀬戸口が、祭を見る。

 「狩谷か?狩谷なのか、あれは?―――そう云うことか、青めっ」

 唸る。

 モニターの中で、士翼号複座型が、幻獣=狩谷を蹴り飛ばした。

 「あっちゃん、あっちゃん、めーよっ!」

 ののみが祭と共に、必死に厚志に向かって叫ぶ。

 「おともだちをなかせたら、めーなのよ」

 「もう止めてーっ!!」

 ぶんっ。

 その時、初めて三番機から応答が入った。

 モニターに写る厚志の無表情な顔。

 『・・・・・・五月蝿い・・・・オレに命令するな・・・・・』

 ぞっとする声音が聞こえた。

 『・・・・もう、こんな世界のことなぞどうでもいい・・・・知った事かっ』

 「っ、坊や、しっかりしろっ、そんなこっちゃ奴らの思う壺だぞ」

 『・・・・関係無い、青に関わるモノは全て抹殺する・・・・奴らは後悔しながら死ぬだけ・・・』

 

 

 

 ゲシッ!

 不意に、シートの後ろを蹴られた。

 「――――なっ!?」

 まさか!?

 慌てて振り返る厚志。

 「何をしているんだ厚志、そなたらしくもない」

 そこには、身体を起こして、ごしごしと顔に付いた血を拭う舞の姿があった。

 「そなたは、いつもぼややんと笑っておれば良いのだ」

 「舞っ!!」

 「なんだ?」

 「い、生きて――――」

 「あたりまえだ、馬鹿者!勝手に私を殺すでない――――ああっ、泣くな!そなたは自分の相棒の事をもう少しは信用せよっ」

 はらはらと安堵のあまりに涙を流す厚志の姿は、先程までの彼と同一人物とはとても思えない。

 「第一、我らは相棒であろうが。私がそなたを置いて先に逝く事など無い、安心せよ我がカダヤよっ」

 舞の言葉に、ただただ頷く厚志。

 そこには真なる“竜”の姿は無かった。

 それは――――。

 人類の“決戦存在”などでは無く。

 殺戮為す“豪華絢爛たる死の舞踏”でも無い。

 それは・・・・。

 ・・・それは、幼い頃に、誰もが聞いた御伽噺。

 ただの少年が。

 ただ愛する人達を守る為に。

 血反吐を吐き、踠き、足掻きながら。

 ただの人間から、ただ努力によって、ただの人間で在る事を止め、良き世界への変革を望み導き出した『結果』。

 それは、長い夜が終わり夜明けの時が来たよと告げる足音、“豪華絢爛たる光輝呼ぶ舞踏”。

 “魔王”たる運命を退け、最強の“竜”で在る事をやめ、人類の守護者と成ったもの。

 ――――――“明けさす未来への希望”。

 

 結ばれていた士翼号の口が、開いた。

 朗々とこの世界のものではない言葉で、謡う。

 

 絶望と悲しみの海から それは生まれ出る

 地に希望を、天に夢を取り戻すため生まれ出る

 闇をはらう銀の剣を持つ少年

 それは子供のころに聞いた話 誰もが笑うおとぎ話

 

 士翼号の右手に銀の剣鈴が現れる。

 それは、誰も傷付けない為の刃。

 

 陰謀と血の色の空から それは舞い降りる

 子に明日を 人に愛を取り戻すため舞い降りる

 闇をはらう黄金の翼を持つ少女

 それは子供のころに信じた夢 誰もが笑う夢の話

 

 士翼号の背中に金色の光が集う。

 金色の翼を形作る。

 それは、無限の愛を望まれた黄金の翼。

 

 でも私は笑わない 私は信じられる

 

 はるかなる未来への階段を駆け上がる

 私は今一人じゃない

 

 どこかのだれかの未来のために

 

 幾千万の私とあなたで あの運命を打ち破ろう

 

 りぃぃーーーんっ。

 士翼号が翳した剣鈴が、澄んだ音を立てた。

 

 我らは全ての悲しみと戦いの終結を希望する

 

 青いリューンが集い、士翼号を彩る。

 金と青の光の乱舞。

 「さあ、行くぞ我がカダヤよっ!狩谷を助け出すのだ、そなたの友をっ!そなたには出来る筈だ」

 「ああっ、そうだね」

 笑顔を浮かべて、厚志が頷く。

 「・・・・・・ふふっ、やはりそなたには、その笑顔の方が似合ってるな」

 厚志の意思を受け、士翼号が稼動する。

 銀の剣が、閃き―――――。

 黄金の翼が、羽ばたいた――――――。

 

 

 

    了

 

 

 

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