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「スナック バロン」

「男爵」

北海道夕張市本町「梅ヶ枝通り」。

2007年3月6日に残念ながら財政再建団体へと転落した

夕張市の歓楽街は人通りも無く、灯りの消えた飲食店が

建ち並び、夕闇はとても物悲しい空気に包まれているが

炭鉱最盛期には「不夜城」とまで言われ、日が昇るまで

どのお店でも呑めや唄えやの大騒ぎだったそうである。

そんな頃の情景を思い描きながら一軒のジャズバーへ向かう。

昭和49年開店の老舗ジャズバー「バロン」。

古い木製ドアを開けると宮坂優子ママが笑顔で待っており

カウンターに座ってまずはサッポロビールでママと乾杯。

ビールがグビグビっと喉元を通る瞬間が実に気持ちイイ。

店名「バロン」は「男爵」の意味。しかしながら実は

「バロンで呑んでベロンベロンになってドロンする」

という今は亡きマスターの洒落なんかもあったりする。

「ふるさん、そこの後ろから好きなレコード選んでね。」

私の座るストゥールの後ろにある硝子戸付きのレコ棚には

そのマスターがコレクションしたジャズレコードが

ズラリと収納されており、一部の雑誌には1500枚だとか

2000枚だとか書かれていたようだが、実質は1000枚程度。

それでもこれだけの数が揃うお店が夕張にあるとは驚きだ。

マスターはよくジャズライブなどへ足を運んだそうだが

ふと手に取った私の大好きなピアニスト、ビル・エヴァンスの

ビレッジ・バンガードでの演奏を収録したジャケット裏には

マスターがエヴァンス本人からもらった貴重なサインが

書かれおり、ファンにとっては間違いなく垂涎モノである。

 

「夕張」

瓶ビールを飲み干し、今度はブラックNIKKAをロックで。

ゆっくりとグラスを傾けているとお店の両端にでんと構える

アルテックの巨大スピーカーからエヴァンスの切なくて美しい

ピアノの音色が流れ、ドラムとベースが身を寄せ合うように

これを追いかけていく。ただひたすらに美しい音景である。

「マスターはジャズのレコードだけは絶対触らせてくれなくてね、

レコードを置いているその戸棚にも必ず鍵を掛けていたわね。」

という戸棚の中にはジャズのレコードが所狭しと収納されており、

ジャズは全く知らなかったという優子ママもまるでマスターを

労るかのようにそのレコード達を大切にしながら回している。

ママは「私、喋るのが苦手でこういう商売向いてないのよ。」と

眉を幾分ひそめながら話すが、いやいや、そんなことは無い。

素敵な笑顔とほんわかとした口調に癒される方も多いだろう。

「こないだGLAYのTERU君がふらっと一人で来たのよ!」と

まるで子供のように目を輝かせながら話すママは年がずっと

下である私が言うのもなんであるが、とても可愛らしい方だ。

そんなママも「やっぱり夕張には元気を出して欲しいわ。」と

ちょっと寂しげな面持ちで話すのを見て私もつい切なくなる。

しかし、ママをはじめ、この夕張で頑張ってる大勢の方々と

お会いしてきっと、いや、必ずやまた元気のある「夕張」が

取り戻る日が来ると確信しながら今宵も杯を傾けるのである。

頑張れ、優子ママ!頑張れ、夕張!

 

 「スナック バロン

北海道夕張市本町2−65

0123−52−3343

最寄り駅

JR夕張駅より徒歩15分、バス1分

お店一口メモ・・・

昭和ジャズ喫茶の薫りがタップリする

知る人ぞ知る夕張の名ジャズバーです。

お店の看板は「スナック バロン」となっておりますが

カラオケなどは無く、ジャズを中心にアナログ盤が

豊富に揃うお店です。実は陽水や松山千春などの

初期のアナログ盤なども豊富に揃っております。

夕張を訪れる際には必ず寄りたいアットホームなお店です。